モデル3の永久磁石モーター

皆様、大変長らく更新が滞っており申し訳ありません。仕事も一段落したので書き溜めたネタを順次出していきたいと思います。

今回の記事はテスラ車に使われているモーターについてです。モーターの世界は非常に奥が深く、私もまだまだ知らないことが多いのでエンジニアや鉄道オタクの皆様、間違いがあればご指摘よろしくお願いします。

さて、モーターと一口に言っても色々種類がありますが本日はインダクションモーターとDCブラシレスモーター、そして永久磁石スイッチトリラクタンスモーター(PMSRM)に絞って話を進めます。モデルSやXに搭載されているのはインダクションモーターで、モーターのくせに中に磁石が入っていないことが特徴です。一方、アメリカで現在どんどん台数が増えているモデル3は永久磁石を使ったスイッチトリラクタンスモーターを採用しています。子供の頃にラジコンやミニ四駆で遊んだ方ならモーターを分解したこともあるかと思いますが、こうしたおもちゃに使われるモーターと異なりどちらのモーターもブラシがないため摩耗する部品がなく、長期間使えるというメリットがあります。(下図のミニ四駆のモーターはブラシが整流子と接触して回転するため、いつかはブラシが摩耗します)

motor_comm_brush.jpg(Photo credit: chokomacar.com)

インダクションモーターは磁石がない代わりにステーター(ローターを取り囲む部分)に電気を流して磁界を作り出します。そのため、最初から磁界を持つ永久磁石と比べて磁界を作るためのエネルギーが必要なことから効率の面では15%ほど劣ります。以下のグラフは一般的なインダクションモーターと、2004年式プリウスのDCブラシレスモーターの効率を表すグラフになりますが、最も効率のいい箇所で見ると、圧倒的に永久磁石を使ったDCブラシレスモーターが優位なことがわかります。

Iso_induction.png(Photo credit: University of Adelade)

2004prius_pic11.png(Photo credit: Toyota Motor Corporation)

ではなぜモデルSがインダクションモーターを採用しているかというと、いくつか理由が挙げられます。

1) ハイパワーであること。永久磁石と異なり、電流を流せば流すほど強い磁界が得られるので、比例してモーターの出力も高くなります。
2) 熱に強い。DCブラシレスモーターに使われる永久磁石はネオジムをベースとしたものですが、温度の上昇と共に磁力が衰え、約80℃まで加熱されると不可逆的に磁力を失います(永久減磁)。
3) レアアースを必要としない。ネオジムやジスプロシウムといった希土類金属は調達コストが高く、また歴史の浅いメーカーにとって大量購入は困難という側面もあったと思います。

他にも細かな理由はありますが、モデルS発表当時はプリウスやLEAFなど競合他社がみんなDCブラシレスモーターを使っていた中、ハイパワーを売りにしたラグジュアリーEVとして、モデルSにはインダクションモーターはうってつけの存在だったのです。

一方、モデル3は大衆向けの普及モデルという位置付けから、電費重視のPMSRMを採用しています。低回転では素晴らしい効率ですが、高回転に行くほど磁力が足りず効率が落ちていきます。従ってアウトバーンのような道路で爆走するのには向いていません(日本の高速道路であれば必要にして充分です)。PMSRMは元々の効率が高いために、同じ航続距離を得るのにより少ないバッテリーで事足ります。バッテリーが少ないと車両コストも下がるし、軽量化にもつながります。そして軽量化は走行性能に反映されるので、高回転域でのパワーさえ犠牲にすれば様々なメリットが享受できます。

永久磁石の有無でモーターの主な特徴が分かってきたところで気になるのが、2019年頃登場予定のルーディクラスモードを備えたモデル3のPモデルのスペックです。パフォーマンスモデルだけ特別にインダクションモーターを搭載するのか、それとも大出力のPMSRMを開発するのかでモデル3 Pの方向性が見えてきます。個人的には、バッテリーがすぐにオーバーヒートしてサーキット走行ができないと言われているモデルSの弱点を克服して、大容量バッテリークーラーとインダクションモーターを備えたレーススペックのモデル3 Rを出してくれないかと勝手に期待しております。そして、そろそろモデルチェンジが噂されるモデルSもパフォーマンスより航続距離やコストが気になるオーナーのためにPMSRMを使った75Dなども発売されるのかもしれません。

h7czdwedw60rodr4csmi.png(Photo credit: Electric GT Championship)

最後に、テスラモーターズはインダクションモーターの原理を発明したニコラ・テスラにちなんでTESLAという社名になったのだと思うのですが、いつまでもフラッグシップモデルにはハイパワーインダクションモーターを搭載してテスラらしさを保って欲しいと願います。

(※下記コメント欄のYamatani様のご指摘を受けて一部内容を修正しました)

4件のコメント

    • Yamatani様、ご指摘ありがとうございます!DCブラシレスではありませんね。調べ直してみた所、モデル3はスイッチトリラクタンスモータなのですが、三相交流磁石式「同期モーター」でお間違いないですか?

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  1. モデル3に使われているのはPMSRM (Permanent Magnet Switched Reluctance Motor) はDCブラシレスモーターの一種ですから間違いでは有りません。
    PMSRM の S は Synchronous (同期) では無く Switched です。これは Elon Musk もテスラのインバーターの設計者もそう呼んでいるので間違いはないでしょう。

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    • TS様、コメントありがとうございます。もう一度モーターの仕組みについて勉強し直してきます。
      最近、Munro LiveというYoutubeチャンネルで少しモデルYのモーターの内部についても触れていたのですが、テスラのモーターは他社に比べて性能がいいみたいですね。

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Steve Ikeda への返信 コメントをキャンセル